しゅふなせいかつ ごはんときどき読書

都会を離れ、山の麓の町に暮らして四十年。食べること、読んだ本 のこと。

nhk朝ドラでは語られなかった末妹の自立「サザエさんの東京物語」長谷川洋子著( 朝日出版社)

 

 

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かつて、NHKの「まー姉ちゃん」という朝ドラが大ヒットして、九州から上京した長谷川町子一家の、一致団結して苦労に立ち向かう姿が、面白おかしく、毎回心温まるエピソードとして描かれた。

一家の長である父を亡くし、女ばかり三人の生活の中で、母親はリーダーとなり、長年に渡り采配を振るうが、二人の姉たちも強烈な個性を放つ。

経済的に一家を支えた次女で漫画家の町子とマネージャー役の長女毬子が中心となって生活は築かれて行くのだが、年齢も離れていて、病弱な三女の存在は、常に庇護されるものとして描かれていた。

本書は、その三女、洋子の視点から書かれた長谷川家の物語である。

 

漫画のサザエさんの家庭を、実は、子どもの頃の私は好きになれなかった。両親不在(祖母の愛があったので、愛に飢えてはいなかったけれど)の家庭に育った私は、教科書にあるような両親がいて、家があって、ご近所付き合いがあってという典型的な幸せな家庭のドラマはよそ事で、居ごこちが悪く、見る気になれなかった。

  

家庭漫画って清く、正しく、つつましく要求されるでしょう。だけど、それって私の本性じゃないのよね。だから『いじわるばあさん』のほうが気楽に描けるのよ。

この作者町子の言葉に、私はホッとする。

 そういう作者町子の、傍若無人ぶりが、やはり面白おかしく綴られる。

長谷川家の三姉妹の中で、所帯を持ったのは、三女だけである。長女毬子の夫は新婚まもなく戦死し、町子は生涯独身であった。平凡なサラリーマン家庭磯野家のエピソードは独身の町子の創作である。

三女の家庭の出来事を題材にしたことは当然あったろうし、そうなると三女洋子の家族は一族中に観られていることになる。

この三女がどう考え、どういう気持ちであったかは語られてこなかった。

男でも女でも、家長になったものは、様々なものを踏みにじって進むのかも知れない。矢面に立つものは、家内のささやかな葛藤などとるに足らないことと思うだろう。

 

串だんごと自他共に認めていた三姉妹の、絆を緩めるかのように、60歳を前に、洋子は自立を決める。すでに夫は亡くなり、普通ならば、実の兄弟姉妹の存在が心強い状況のはずだ。それだけ自立を渇望していたのだろうか。

 

 

生まれたときから末っ子の味噌っかすで、機関車に引かれる貨物列車同様、姉達の引いたレールの上を走ってきた。おもしろいこと、楽しいこと、心強いこともたくさあった。でも、自分で決めて、自分の足で歩いてこその人生ではないだろうか。

 

母親の遺産を放棄したこともあり、 この姉妹の別離は、少しスキャンダラスに報じられたらしい。私も、読み進めてきて、三女洋子の行動に驚いたが、考えてみれば、これは普通のことである。

人は幸福な物語の中に、ネガティブなものを探そうとする。しかし、探すまでもなく、誰にも、どこの家庭にもある。

マンガ「サザエさん」が色あせるわけではない。

清く、正しく、つつましく、の幻が消え、実人生の苦味が残る。